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仕事がない、家賃を滞納した… そんな時どうすれば?弁護士、支援団体に聞いた

相談窓口などに寄せられる声は日々、切実さを増している。新型コロナウイルスの影響は製造業にも…もしも仕事を失い、家を失いそうになったら、どうすべきなのだろうか。

新型コロナウイルスの影響が続く中、雇用への不安が社会に拡がっている。

相談窓口などに寄せられる声は日々、切実さを増している。今後、2008年リーマンショック時と同様に、非正規・正規の雇用形態を問わず仕事を失う人々が増えることが予想される。

もしも仕事を失い、日々の生活を送ることが困難になったら。家賃やローンを払えなくなったら。どこに頼れば、どんな支援を得られるのか。

製造業にも解雇の波が…

全国の労働組合を束ねる中央組織の一つ、全国労働組合総連合(全労連)は、電話での相談窓口を開いている。全労連の仲野智・組織法規対策局長は、「5月に入って相談内容の深刻さが増してきた」と、BuzzFeed Newsの取材に語る。

「相談の内容が5月に入り、変化してきました。正規雇用、非正規雇用、フリーランス問わず様々な方から休業補償がされず、収入が減り、生活ができないといった声が寄せられています」

「新型コロナの感染が拡大し、まず最初に打撃を受けたのは非正規雇用の方やフリーランスの方、そしてサービス業の方でした。そし、今、物が売れなくな、製造ラインが止まることで、製造業の下請けで働く方々が解雇されるケースが増えてきています」

2008年のリーマンショックの際も、製造業を中心に、「派遣切り」が全国的に深刻な問題となった。当時と似た兆しが、見えつつある。

「労働者の生活の目線で言えば、基本的には月末締め、翌月15日もしくは25日に給与が支払われるケースが多い。4月分の給与を最近になって手にして、それがとても生活できない金額だった場合も多いと推測されます」

いま手元に現金を必要としている人がいる。しかし、政府の持続化給付金などは支給の手続きが遅れていることが指摘されている。申し込んでもすぐに給付を受けられないという現実がある。

仲野さんは、経営者が6月から事業を再開しようにも、資金繰りが悪化して倒産するケースも出てくると予測する。事業が立ち行かなくなれば、最初に影響を受けるのはそこで働く人々だ。

「1日でも早く、補助金を事業者に届けてほしい」と仲野さんは訴える。事業の継続は、雇用の継続でもあるからだ。

6月6日には全労連をはじめとする有志が「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」を開く。相談会では生活の悩みなど幅広く受け付けるという。

全労連と並ぶ労組の中央組織、日本労働組合総連合会(連合)も、フリーダイヤルで労働相談を受け付けている。連合によると、3月も4月も、相談件数は昨年同月を上回った。3月は前年比148%増、4月は172%増で、雇用環境がどんどん悪化していることは、間違いない。

個人で利用できる制度、どんなものが?

仕事が減り、生活が立ち行かなくと、お金の問題と住まいの問題が顕在化する。その際、個人が利用できる制度にはどのようなものがあるのだろうか。

(1)緊急小口資金
新型コロナ感染症の影響による休業や失業等で生活資金に悩む人のための小口貸付。上限額は学校等の休業、個人事業主等の特例の場合、20万円以内。その他の場合、10万円以内。

(2)総合支援資金
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、収入の減少や失業等により生活に困窮し、日常生活の維持が困難となっている世帯に向けた必要な生活費用の貸付。上限額は(2人以上の世帯の場合は月20万円以内 。単身世帯の場合は 月15万円以内。

(3)傷病手当
新型コロナウイルス感染症に感染し、その療養のために働くことができない場合にも利用できる。支給を始めた日から最長1年6か月の間、給与の3分の2相当額を受け取ることができる。

(4)住居確保給付金
休業等に伴う収入減少により、離職や廃業に至っていないがこうした状況と同程度の状況に至り、住居を失うおそれが生じている場合、一定期間、家賃相当額を受け取ることができる。

(5)生活困窮者自立支援制度
就労支援・就労準備支援、住居確保給付金の利用、家賃、税金、公共料金等の滞納や各種給付制度等の利用に向けた支援と合わせて、一時生活支援が受けられる。

(6)社会保険料の猶予
新型コロナウイルス感染症の影響により一定程度収入が下がった場合、厚生年金、国民健康保険、国民年金、後期高齢者医療制度及び介護保険の保険料などが減免が認められる場合がある。

また、事業主が労働者を休ませる判断をした場合、休業期間中は給与の60%以上を支払わなければならないと労働基準法で定められている。こうした休業手当を受け取ることは働く人の権利だ。

参考:【厚労省】生活を支えるための支援のご案内

住まいの問題と債務整理は、多くの場合はセット

生活に困った人の相談に乗っている代々木総合法律事務所の林治弁護士は、これまで毎月家賃を払えていたのに、仕事が減ったために滞納してしまうケースがある、と語る。

また、職場の寮などで生活していた人の場合、仕事と同時に住まいを失うケースもある。

林弁護士は家賃が払えない、ローンの支払いができないといった相談に日々応じている。住まいの問題を抱える人の多くが、債務整理も必要としているのが現状だという。

「仕事があるうちはなんとか生活が回っているけれども、仕事が減ったり、なくなればすぐに困窮してしまう。貯金など資産が少ない方の場合、様々なところから借金をしているケースが多いと言えます」

困窮に陥りやすい人から徐々に影響が出始め、ある程度は資産があっても、家賃やローンの支払いに苦労する人が出てくるのではないか、と林弁護士はみる。

「多少なりとも生活に余裕がある方の場合、これからまだ切り崩すことのできる貯金がある、借金ができるという方もいらっしゃると思います。すぐに生活が立ち行かなくなるわけではない。しかし、そうした方々が借入を繰り返し、手に負えなくなる場合も少なくありません」

相談は傷口小さいうちに

林弁護士は「傷口が小さい時に相談に来てくれると、私たちも手を打ちやすい」と強調する。

すでに複数の金融機関などから借入をしている人の中には、「なんとかします」と債務整理を拒むケースも少なくないという。しかし、結果的に違法なヤミ金融などから高利で借りてしまい、問題が大きくなる場合がある。

「傷口が小さければ絆創膏を貼れば済むところを、大手術が必要な状態に陥ってしまう。だからこそ、まだ借入などをする余裕がある方も、この先、立ち行かなくなり、傷口が大きくなってしまうことを心配しています」

持ち家がある場合、家を担保に借り入れる選択肢もある。しかし、返済できなくなれば家を失うリスクがある。

経済回復の見通しが立ちづらい状況だからこそ、傷口が小さいうちに、慎重に対応することを林さんは呼びかける。

「お金を借りる時に意識していただきたいのは、急場をしのいだとして、その先で返済の目処が立つかどうか。『頑張れば返済できる」と考える方は非常に多いんです。そのお気持ちそのものは、悪いことではありません」

「しかし、いつ以前と同じ水準の収入を取り戻すことができるかわからない場合もある。そんな中で、『あの時の稼ぎがあれば、返せるはずだ』と考えて借入を増やす事はお勧めできません。今は状況が違います」

家や車などの購入のためローンを組むことなどや借金することそのものを否定しているわけではない。注意を呼びかけているのは、目の前の生活をしのぐために、無理な借金を重ねてしまうことだ。

主な対応策は生活保護と債務整理

弁護士に相談した場合、どんな手が打てるのか。

「家賃が払えない、ローンが払えないといった相談に対して、基本的に取る手段は生活保護です」

生活保護の制度では、転居費用を得ることもできる。その資金を使って転居し、生活を立て直すことを勧めると林弁護士は説明する。なお、生活保護を受給し、転居した場合でも、滞納した家賃などが免除されることはない。

あわせて債務を整理するが、状況が深刻で自己破産を申告するケースは少なくないという。生活保護と自己破産が、生活立て直しの最終手段といえる。

だが各地の相談会では、これまで困窮や路上生活は縁遠かったこともあり、生活保護への抵抗感を抱く人が少なくないという。

林弁護士は「傷が広がり、最悪な状況に陥ることを防ぐためにも、必要な場合は生活保護や債務整理を利用することを求めたい」と話す。

無理な条件を提示されたら…

賃貸住宅の入居者が家賃を滞納した場合、「追い出し屋」が出てくること注意が必要だ。リーマンショック後も、家賃が払えなくなった入居者を違法な方法で強制的に追い出すケースが相次いだ。

鍵をロックアウトする、部屋から荷物を処分するといった対応が、その代表例だ。こうした暴力的、脅迫的な手段は違法だ。これまでの裁判でも、多くの場合は入居者側が勝訴し、最大220万円の損害賠償を得たケースもある。

最近は問題が知られてきたこともあり、そこまで強制的な手段に出ないことが多いと林弁護士は前置きした上で、実現不可能な条件が書かれた書面に署名捺印させ、退去を迫るケースがある、と語る。

例えば「私は1週間後までにこの部屋を出ます。その時に残っていた荷物は捨てていただいて結構です」といった合意書にサインを求められるケースだ。

「1週間で次の住まいを見つけることは不可能です。こうした書面へのサインを求められたら、できない、と言っていただきたいです」

もしサインしてしまった場合も、実現不可能な条件が記載された書面に効力はないとする判例もあるため、その条件を守る義務はない。

国民生活センター、東京都不動産業課の「賃貸ホットライン」(03-5320-4958)をはじめとする自治体の窓口、そして弁護士に相談すべきだという。

「もしも無理な条件を突きつけられたら『検討します』と伝え、その書面等を持って窓口で相談してください。その場で結論を伝える必要はありません。相談してからでも、遅くありません」

重要な点は「信頼関係」の有無。その条件は?

不動産の賃貸借では、貸主と借主の「信頼関係」が重要だとされている。

多くの場合、その場限りの売買契約と違うのが、この点だ。「信頼関係」があるうちは解除できないものと解釈されている。そして、この「信頼関係」は軽微な契約違反では壊れないとされている。

「明確な決まりはありませんが、多くの場合は3ヶ月ほど家賃を滞納すると、『信頼関係』がなくなったとみなされます」

法務省は5月22日、テナントに関して新型コロナの影響で家賃支払いが困難な状況は「信頼関係」を破壊しないとする見解を通達した。

そのため、通常の住宅についても新型コロナの影響で家賃支払いが困難な場合には3ヶ月以上家賃を滞納したとしても、「信頼関係」は破壊されていないと解釈される可能性がある。

住居確保給付金の制度には穴も

家賃支払いへの補助として、政府の「住居確保給付金」という制度がある。原則3ヶ月、最長で9ヶ月、家賃相当額の支給を受けることが可能となる。

受給額は東京23区と多くの市の場合、単身世帯で5万3700円となっている。

リーマンショック後に整えられた制度で、新型コロナウイルスの感染拡大に際して支給要件が緩和された。使いやすくなっただが、課題は残ると林弁護士は指摘する。

「実は収入の要件がかなり厳しいものとなっています。かなり収入が減らないと、要件には当てはまりません。給与が少し減って、家賃のやりくりが苦しいといったギリギリの状況にいる人が使いにくい制度になっています」

「また、支給の上限額は生活保護の住宅扶助基準と同じ水準と定められています。しかし、これで生活することは非常に難しい。低すぎると言わざるを得ません」

公営住宅を減らし続けた東京都

住まいを確保するための支援を受けることにも抵抗感がある人もいるかもしれない。だが、西欧や北欧には、住まいの確保を公的に支える制度が整っている国が多い。

「日本人は『家は自分で確保するもの』『住まいは社会的なサービスで与えられるものではない』という意識が非常に強いと感じます。自分で頑張って、稼いで一国一城の主になる、家を買うことが成功のシンボルとされてきました」

「しかし、住まいは本来、あらゆる生活の基礎となるものです。家があるからこそ、初めて人間的な生活を送ることができる。自分の力で住まいを得ることができない人に、それを保障することは、国や社会の責任だと私は思います」

住まいの確保を支える「ハウジングファースト」の方針は、日本ではまだ馴染みが薄い。ヨーロッパなどでは5分の1近くが公営住宅となっている国もある中で、東京都はこれまで公営住宅を減らす方向へと舵を切ってきた。

2016年、東京都は国立競技場近くにあった「都営霞ヶ丘アパート」を取り壊し、五輪開催に向けた準備を進めている。石原都政以降、東京都では公営住宅は増設されていない。

生活再建のためにも、住まいを失わないで

長年、路上生活者や生活困窮者の支援を続け、現在も住まいの貧困の問題に取り組む「つくろい東京ファンド」の稲葉剛さんは、こうした住居確保給付金の上限金額に限界がある中で必要なのは「現金もしくは現物(住まい)の給付だ」と語る。

住居確保給付金では敷金や礼金といった初期費用は支給されないため、生活再建する上で使いづらいのが実状だという。

だからこそ物件を公的に借り上げて困窮者に提供する必要がある、と稲葉さんは指摘する。

「住まいをいったん失ってしまうと、生活の再建は非常に難しくなる。まずは住まいを失わないことを最優先に、弁護士や支援団体などに相談していただきたい。住居を確保できれば、生活を再建することも可能です」

生活再建で重要となるのが、生活保護の一歩手前で立ち行かなくなった人を支える生活困窮者自立支援制度と、生活保護という2つの制度を、必要に応じて利用することだ。

新型コロナの影響で申請者が増える一方、福祉事務所の窓口対応職員は感染拡大防止の観点から減り、平時よりもスタッフへの負荷は高まっている。生活保護の利用を希望しても窓口で追い返す「水際作戦」が、今もなくならないという。

支援団体や弁護士、自治体の地方議員などは生活保護の利用を希望する人に同行し、申請を支援している。稲葉さんによると、「自治体窓口で申請を受け付けてもらえない場合にはこうした人々の協力を仰ぐことも選択肢の1つ」だ。

生活保護には依然としてマイナスイメージが付きまとうが、仕事を失ったとしても住まいを失う前に利用することで、より早く生活を立て直すことを可能にする。

憲法は「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定している。それが生活保護制度の根拠であり、国民の権利でもあるのだ。