瀧波ユカリさんの人気漫画『モトカレマニア』のドラマ化を記念して開始した連載「私たちのモトカレ」。実際のモトカレ話を取材してお伝えするドキュメンタリーだ。

読者の方々からもリアルな元カレネタをいただいている本連載だが、今回はFRaUWebにも寄稿してくれているフリー編集者の安藤由美さんのモトカレ話が記録的壮絶さだと発覚、緊急寄稿いただくことになった。自身の身体に刻まれている元カレ話を語っていただく。

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心に刺さったままのモトカレ

「彼が初めて付き合った人だったから」
「あんな理想のタイプ、二度と現れない」
「いろいろ人とつきあってもあの優しさが忘れられない」
「とにかく大好きだったから」
と元カレが忘れられない理由はさまざまだ。

私にも、忘れられないというか、心に刺さったままになっている小さな棘のような元カレがいる。未練があるわけではない。しかし、私の恋愛観を大きく変えてしまった、ある意味、呪縛になっている元カレ。お耳汚しになるかもしれないが、その出来事を聞いていただければと思う。

ひとつ年下の彼とは、大学3年の頃、バイト先のデザイン会社で知り合った。同じチームの雑用を担当していたことで、朝から晩まで一緒に過ごしていた。繁忙期に終電を逃した彼が、私の部屋に泊まりそのままいついて同棲が始まった。今考えるなんとも安易なスタートだった。しかし、彼との暮らしは想像以上に楽しかった。

いっしょに暮らし初めて、3年。私はフリーランスで女性誌の仕事をはじめていた。彼も中堅の広告制作会社に就職をしていた。当時は、新雑誌創刊ラッシュで、私も彼も寝る間もないほど忙しかった。しかし、次第に景気がよかった出版業界に少し陰りが見え始めた。関わっていた雑誌が次々と休刊。20代半ばで800万以上の年収があったのに、一気に年収は半分まで減ってしまった。瞬く間に貯蓄は目減りしていく。

どうしたものか。彼に相談をしようかと思った矢先のこと。ある朝、トイレの前でしゃがみこみ「死にたい」と彼は言った。床は彼の尿で汚れていた。これはただ事ではないと、取材したことがあった心療内科クリニックにすぐに彼を連れていった。以前から、職場が合わないと愚痴をこぼしていたが、医師から「うつ病」と診断が下された。休職を勧められたが、彼はすぐに広告制作会社に退職届を出してしまった。

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