地震や台風などの自然災害で自宅が全壊したとしても、住宅ローンの債務は残ります。

最悪の場合、今まで金融機関から借りていた住宅ローンに加え、自宅の修繕や新たな住宅購入のためにローンを組んで二重に返済することにもなりかねません。

今回は、自然災害でローンの返済が難しくなったときにどうすればよいのか、ファイナンシャルプランナーの吉井希宥美さんに対応策を教えてもらいました。

自然災害で自宅が全壊したら住宅ローンは免除になる?

1. 行政の救済措置を知っておく

罹災証明書

artswai / PIXTA(ピクスタ)

災害時には、行政などから給付金を受けられることがあります。以下に主なものを紹介します。詳しくは内閣府のホームページをご覧ください。

1-1 被災者生活再建支援制度

この制度は、災害により住宅が全壊するなどの被害を受けた世帯に対し、最大300万円の支援金が支給されるものです。

「基礎支援金」と「加算支援金」の合計額が支給され、「基礎支援金」の支給額は全壊なら100万円、大規模半壊なら50万円。「加算支援金」の支給額は「建築・購入」なら200万円、「補修」は100万円、「公営住宅を除く賃借」は50万円です。

1-2 住宅の応急修理(災害救助法による)

日常生活に必要な個所を応急的に修理した場合に、1世帯当たり57.4万円(平成29年度基準)を限度に補助が受けられるものです。補助を受けるには、以下の要件を満たすことが必要となります。

・災害により住宅が半壊または半焼した世帯
・応急仮設住宅等に入居していない
・自ら修理する資力がない(大規模半壊以上の世帯に関しては資力を問わない)

1-3 災害復興住宅融資 (住宅金融支援機構による)

災害により滅失・損傷した家屋の復旧に対し、低金利で貸し付けを行うものです。申し込み受け付けは被災日から2年間。返済期間は最長35年または年齢に応じた最長返済期間、いずれか短い年数となります。

融資額の額は、
・建設の場合
建設費、購入費などの所要額の合計額または建設資金1,680万円、土地取得資金970万円、聖地資金450万円、特別加算額(建設資金)520万円の合計額のいずれか低い額が限度となります。
・購入の場合
基本融資額2,650万円(敷地の権利を取得しない場合は1,680万円)、特別加算額520万円が限度になります。

2.それでも返済できない場合は債務整理を

東日本大震災

いがぐり / PIXTA(ピクスタ)

東日本大震災がきっかけになり、震災前に借り入れた住宅ローンの返済が困難となった個人を対象に、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」 にのっとった債務の免除が、災害を受けた人に一層広く行われるようになりました。

2-1 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン

このガイドラインを利用することで、法的倒産手続による個人信用情報の登録などの不利益を回避できます。国の補助により弁護士費用はかかりません。
また、手元に残せる現預金の上限が500万円を目安に拡張されます。そのほかにも被災者にとって有利になることがあるので、詳しい内容は一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関のホームページでご確認ください。

ガイドラインによる債務整理の手順は、以下のようになります。
・借り入れている金融機関に申し出る
・金融機関の同意が得られたら、「自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関 」に登録している弁護士など専門家に支援を依頼債務整理の内容を決める
・「調停条項案」という書類を作成してもらい、借入先の金融機関に提出する
・金融機関の同意を得たら、簡易裁判所に「特定調停」を申し立てる
・調停条項を確定させる(債務整理の完了)

クレジットカードとスマートフォン

しげぱぱ / PIXTA(ピクスタ)

もしこの制度を使わないと、一般的にいう「債務整理」を行うことになります。「債務整理」とは法的な手続きにより「返済額を減額してもらう」「免除してもらう」「猶予してもらう」ことを指します。

債務整理にはいくつかの種類があり、金融機関にローンの金利を減免してもらったり、返済を分割にしてもらったりする「任意整理」や自己破産や個人(民事)再生があります。
これらの法的手続きで債務整理をすると、その情報は信用情報機関の「ブラックリスト」と呼ばれるものに登録され、5年間は保管されます。
その間は新たにローンを組んだり、クレジットカードを作ったりできない、携帯電話の契約や機種変更ができないなど、生活に支障が出てしまいます。

3.まとめ

高波

sunrise / PIXTA(ピクスタ)

近年は災害が多発し、いつどこで災害が発生してもおかしくない状況です。今年は大きな台風が2度襲来し、多くの人の生活に支障が出ています。
住宅ローンの債務は、家がなくなったからといっても免除にはなりません。債務者を助ける制度があるということを他人事だと思わず知っておくことが必要です。

宅地建物取引士ファイナンシャルプランナー(AFP)/家族信託コーディネーター®吉井希宥美

【参考】
※ 内閣府公的支援制度について
※ 個人債務者の私的整理に関するガイドライン
※ 自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関

pixta_21512961_S