「前妻の借金返済」を背負う夫。生活は困窮、6人家族で「教育ローン」もあるなか…。借金地獄に妻が考えた“最後の手段”【弁護士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

借金のための借金をするようになったらすぐに誰かに相談を。債務整理を請け負う側は、そう戒めるように訴えかけます。借金のためにする借金が、破滅への入り口であることを熟知しているからです。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、多重債務に窮するある家族の債務整理について、杉本真樹弁護士に解説していただきました。

前妻の借金返済肩代わりまで。6人家族襲う借金地獄

相談者は、 夫に多額の借金があり自己破産を考えています。内訳は会社および金融機関数社、自治体からの借入等です。

金融機関からの借入はご主人が結婚前に作った借金で、自治体からの借入はコロナで仕事が数ヵ月休業になってしまったために借入したものです。会社からの借入は、借金返済や主人の前妻への養育費や前妻名義の借金返済費等で生活費がなく、借入したものです。

相談者は共働きですが、相談者の連れ子が4人おり、毎月の学校からの引き落としや校外学習等の集金があり出費も多く、生活に窮しています。

ご主人の信用情報はブラックで、自宅(賃貸)の名義も光熱費等も全て相談者名義です。現状は、相談者名義のクレジットやカードローンで自転車操業。なんとかやりくりしている状態で、借金はどんどん増え続けています。

こんな状況で相談者まで自己破産すると、大学受験を控える息子の教育ローンや奨学金等にも影響が出てしまいます。そこでご主人だけでも自己破産しようと、いまに至っています。

税金や養育費等が非免責事由なのは、認識しています。気になるのは、ご主人が前妻名義の借金を代わりに払っていることです。これは免責不許可事由になるのでしょうか。

一応、前妻の借金を支払う旨の公正証書は存在しています。この場合でも自己破産して、免責許可はおりるのでしょうか?

補足すると前妻名義の借金は、ご主人が前妻に毎月振込み、前妻が債権者に返済するという流れ。公正証書には借金を前妻に対し、「毎月〇万円ずつ返済する」という旨が記載されているようです。

この借金は、前妻がご主人になんの相談もなく作ったもの。ただ前妻との離婚の際、ご主人が借金を全額返済する事を条件にされたため、このような公正証書が作成されたようです。

こうした状況下、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。

(1)前妻の借金を返済していることは免責不許可事由になるのか。

(2)2人とも自己破産する選択肢もあるが、一人だけにしておく方がメリットは大きいのか。できるだけ、生活に支障がない形で債務整理する方法を知りたい。


破産の手続きを取るべきかの判断基準

今回のケースのような、借金のための借入れで自転車操業のようになっているケースは少なくありません。

そこで、今回のご質問について解説するにあたり、次のことを解説していきます。

1.個人の破産をするうえで、免責不許可事由(原則として免責がされなくなる事情)としてどのようなものがあるか。

2.夫婦ともに破産の手続きを取るべきか、ご主人だけにしておくべきかの判断基準

破産をする場合のデメリットなど

1.個人の破産をするうえで、免責不許可事由(免責が原則されなくなる事情)にどのようなものがあるか

(1)法律上、免責されるケースとは

まず、そもそも免責とは、簡潔には、借金の支払義務から免れさせてもらうことです。免責不許可事由に該当しない場合には、免責されます。

今回のケースでは、ご主人による前妻名義の借金のための支払が、免責不許可事由に該当するかどうかが問題となります。なお、破産の申立てのためには、ご主人が支払不能状態にあることが前提となります。

(2)本件の結論:免責不許可事由に該当し得る事情は見当たらない

本件では、免責不許可事由に該当し得る事情は見当たりません。免責不許可事由は、法律に規定されていますが、このどれにも該当していないと考えられるためです。

(3)法律上、原則、免責されないケースとは

では、法律に規定されている免責不許可事由には、どのようなものがあるでしょうか。

破産法には、いわゆるクレジットカードの現金化、浪費などが免責不許可事由として規定されています。

今回のケースでは、これらの免責不許可事由に当たり得る事情は見当たりません。まず、今回のケースの法律上の整理をします。

今回のケースでは、ご主人が元妻名義の借金(と同額)の金銭を元妻に支払い、これを元手として元妻が債権者に支払う流れが想定されています。

そのため、元妻の債権者への支払とは独立して、元妻がご主人に対し、元妻名義の金銭と同じ金額の金銭の支払いを求める債権を持っているということとなります。ですので、破産の手続きを進めるうえで、ほかの借金と扱いは変わらず、これまで支払ってきた事情は、ほかの借金の支払と同様に免責不許可事由には該当しません。

(4)原則免責されないケースでも免責されるケースとは

では、仮に、免責不許可事由に該当する事情がある場合、一律に免責されないのでしょうか。

この場合でも、裁判所の裁量で免責される場合があります。破産手続開始の決定に至った経緯などを考慮して、免責してよいかどうかが判断されます。

2.ご夫婦ともに破産の手続きを取るべきか、ご主人だけにしておくべきかの判断基準

(1)まず、ご主人が破産した場合の影響は、法律上は、ご主人についてだけ考えることになります。

そのため、ご主人が破産したからといって、ご相談者様が破産をしなければならないわけではありません。

なお、ご主人名義の自動車があり、債権者が担保を持っており引き上げをする場合などには、ご家族の生活に影響が出る場合があります。

(2)次に、ご相談者様が債務整理などを行うかどうかの判断は、収入と債務総額次第です。

債務整理や破産の選択肢を検討するにあたって、一般には、収入と債務総額から検討する返済計画の見通しが立つかどうかが判断基準となります。

今回のケースでは、例えば、ご主人について破産をすることで、これまで返済に充てていたご相談者様の借入がなくなり、家計の収支上、返済計画の見通しが立つのでしたら、そのまま返済したり、任意整理を行い毎月の返済額の交渉をすることが考えられます。

任意整理をしても返済計画の見通しが立たないという場合には、破産も選択肢に入ってくるでしょう。

(3)ご相談者様も破産をする場合のデメリットなど注意事項

ご相談者様名義での教育ローンなどがありますので、ご相談者様が破産を選択する場合には、大学の学費の支払などに悪影響がないかどうかの検討が必要になります。また、自由財産を超える範囲の財産を手放す必要があるため、手放したくない財産がある場合には、破産以外の方法を検討していくことになります。

そのほか、新しい借入や分割での支払ができなくなるなど経済的な信用を前提とした行動ができないという日常生活への影響があります。

このようなことを考慮したうえで、ご相談者様も破産をするかどうか検討していくこととなります。


最後に

借金の問題は、今回のケースのように、借金のために借金をして目の前の支払に対応し続けていることも多く、なかなかご自身の債務状況も理解できていないケースが多いです。目の前の支払に対応し続けているあまり、将来的な支払方法などまで頭が回らなくなってしまい、困り果ててしまわれることも少なくありません。

現状を整理し、対応するべき方法を検討するため、借金の問題でお困りの方は、お近くの弁護士にご相談されることをおすすめします。

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